信州農ある暮らしお宅訪問ブログ

長野県内の‘農ある暮らし’実践者を取材しご紹介します。また‘農ある暮らし’の魅力を様々な角度からお伝えするブログです。

File20“やり方次第で価値を生み出せる”駒ヶ根市 木下 佳信さん・亜紀さん

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2016年に、東京から家族5人で移住し、‘りんごのきのした農園’として新規就農した木下さんご夫妻をご紹介します。

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米作りもされているご自宅裏の田んぼ(4月)にて。

 

佳信さんは、福岡の農家のご出身。大学の農学部では土壌を専門に学び、JICA(国際協力機構)の職員として3年半、主にネパールなどの途上国で農業に関わる仕事に携わりながら多くの事を学びました。帰国後、青年海外協力隊の拠点がある駒ヶ根で転勤生活を送り、一度は東京へ戻りましたが、再びこの地を選び、新規就農という生き方の選択をしました。「移住はウェルカムだけど、農業には抵抗があった」という亜紀さんとの二人三脚もすっかり息が合っているよう。

 

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ご自宅に隣接している畑では、リンゴの苗木育成のほか自家消費の野菜(写真左)や、
今後増やして加工品を作りたいと考えているアーモンド(写真右)

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新規就農者にとって、軌道に乗るまでの道のりは厳しいもの。木下さんは、まだ栽培面積が少なく、顧客がつかないうちから加工品に力を入れました。また、リンゴ以外の主要作物を検討したところ、畑の条件に合い、作業時期が重ならず保存がきく‘ニンジン’がピッタリ当てはまりました。12月上旬から出荷するニンジンは地元直売所では売り切れ商品。ギフトセットに鮮やかなニンジンジュースにも加工され、ほぼロスはないそうです。


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世の中にあふれている‘農産加工品’。
その中から選んでもらえるような、オリジナリティーのある商品を。

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リンゴの苗木育成(写真左)
リンゴや加工品のために温度管理できるように改装した蔵(写真右)

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現在コロナにより激減しましたが、りんごのきのした農園には、年間90泊くらいは、知人やお客さまが来て、都会ではできない遊びやリンゴの農作業など楽しんでいかれるそう。移住したことで家族の時間が増え、三人のお子さんたちも伸び伸び暮らしています。「あのまま東京にいたら、その世界しか知らずにいたと思う。彼らがどう考えるかは別として、今日本が抱えている少子高齢化などの課題を、ここにいるからこそ肌身で感じられる。」と亜紀さん。


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「単純に美しい」。何にも代えられない美しい景色

 

ここでは、やり方次第で価値を生み出せる。と佳信さんは考えます。例えば、高齢のため辞めようとしている人が多い農家を再生していくこと。青年海外協力隊員が海外での任務を終え、ここへ戻ってきた時、「農業」に就いてほしい、そしてまた海外に行きたくなった時には、仲間たちで農地を維持管理できるようなシステムが作れたらいいのではないか。途上国での課題と向き合ってきたように、この地域での課題に向き合い解決したい、と。

 

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土壌については学んでいても「作物」のことは知らなかった佳信さんは八ヶ岳実践大学校で半年、農業の基礎を学びました。移住後は駒ヶ根市とJAのインターン制度を利用しリンゴ栽培の技術と知識を身につけました。新規就農の初期費用を抑えるために、共同の機械を借りるなど
の工夫をし、足りないところを徐々に補強しているそう。


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また、りんごのきのした農園は長野県のSDGs(国連が定めた持続可能な開発目標)推進企業の認定を受けました。例えば、リンゴの剪定木を燃やさずチップにする。単なる労力だけでなく女性ならではの視線から商品開発するなどの女性参画や農副連携、他にも土地利用型の作物を栽培して農地を守るなど、農業分野ではまだ珍しいSDGsの取り組みを実践しています。


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木下さんのこのリンゴ園も、高齢の農業者さんから譲り受けた農地。樹齢40年になるリンゴの木が健在です。‘昔ながらのつがる’は色は悪いけれど、味が良いそう。徐々に新しい品種もとり入れながら、まずは自分の農業経験を着実に上げていき、適正な規模でやることが大事。できるだけ仲間を呼び込み、無理なくやってくれる人を育てたいと思う木下さんのもとには、きっと同じ意識の仲間が集まり、この地域の農業を支えていくのではないでしょうか。

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