File22“地域のお母さんたちと守る伝統野菜”中野市 榎本 郁美さん
中野市の地域おこし協力隊として、中野市の伝統野菜‘ぼたんこしょう’を中心に、農産物の魅力発信などを行う榎本さんをご紹介します。
東京生まれ、埼玉育ちの榎本さんは、もともと食べることが好きで、東京農業大学の栄養学科に入学。次第に農業にも持つようになりました。卒業後は学校給食の調理の仕事をしながら、週末を利用して趣味の登山に出かけていましたが、もっと自然の多いところへ行きたいと感じていました。ある5月の連休に、志賀高原の横手山の‘日本一標高の高いパン屋さん’でアルバイトをした際、中野市の地域おこし協力隊のOGの方と話し、中野市の農業体験ツアーがあることを知りました。
榎本さんは、さっそく中野市の農業体験ツアーに参加してみると、日帰りでは物足りず「もっとガッツリやってみたい」と思い、住み込みで体験ができる農家さんがないか中野市役所に相談しました。そこで紹介されたのが、市の伝統野菜‘ぼたんこしょう’を守り続けている「斑尾ぼたんこしょう保存会」の松野さん。長期休みを利用して、二週間近く泊めてもらいながら、農作業をしているうちに、この地域の景色や、みなさんの人柄にすっかり惚れ込んでしまったそうです。その後、中野市の地域おこし協力隊に応募。現在は「食から農業を活性化する」というミッションのもと、地域や農産物の魅力を発信したり、イベントを企画する他、ぼたんこしょうの栽培作業、加工製造などのお手伝いをしています。
信州の伝統野菜に登録されている‘ぼたんこしょう’は、ピーマン型をしたトウガラシ。種の周りの強烈な辛み成分と、肉厚な果肉の甘みが絶妙なバランスで癖になる美味しさ。形が牡丹の花に似ていることから「ぼたん」の名がついたそうで、標高800m前後のこの地域で100年以上作り続けられてきました。この冷涼な気候が、良質なぼたんこしょうを生み出すそう。
形の良いものに印をつけ種用に残しておいたり、食べれば美味しい赤く熟した果実は、種を取られてしまう恐れがあるため外に出さないようにしています。
作業場の奥にある加工施設。ご飯がすすむ‘こしょうみそ’などを製造。
ぼたんこしょうの収穫時期は7月中旬から10月下旬。ハネダシもロスなく新鮮なうちに刻んで冷凍ストックし、代々受け継がれてきたお母さんたちの味を手作業で加工できるのも、6次産業のメリット。榎本さん生産者さんと消費者をつなぐ架け橋になりたいと話します。
収穫されたぼたんこしょうは、JAや県内外の飲食店などへ出荷。
農作業の合間のお茶時間やお昼ご飯は、榎本さんのお楽しみのひとつ。とれたて野菜と愛情たっぷり詰まったお母さんたちの美味しいご飯に笑顔が溢れます。
左:ぼたんこしょうの葉っぱの天ぷら
右:定番の‘油みそ’。ぼたんこしょうとナスを多めの油で炒めて、甘辛味噌で絡めた一品。
畑でのお茶菓子は、中野市特産のフルーツいろいろ。
「月見草の花も天ぷらにして食べられるのよ」と松野さんが教えてくれました。
「住み込みの農業体験を受け入れてくれたのが、松野さんだったから今に繋がった」という榎本さんと、「孫のようで…」と嬉しそうに話す松野さん。そんなお二人の微笑ましい姿が印象的でした。榎本さんの、その朗らかな笑顔とお人柄で、地域の皆さんに愛されながらミッションを遂行し、任期終了後もずっと繋がっていくのでしょう。
榎本さんは「農業はハードルが高い。でも、興味を持つ人はたくさんいる。もっとライトな農業との関わり方があるのでは」と考えます。これからの新たな農業との関わり方を模索しながら、ご自身の体験を活かし、伝え広めていってく