File10 “標高1000mのリアルな暮らし”伊那市 大竹明郁さん・美保子さん
伊那市街から車で約20分。新山という里山の自然豊かな山の中で、ヨーロッパの民芸品と山小屋レストラン、一棟貸しの山小屋を営む大竹夫妻をご紹介します。
標高1000m。舗装されていない急な上り坂をのぼっていくと、現れるのはまさに‘ヨーロッパの山小屋レストラン’。自分たちでリフォームしたレストラン部分と、営業をクローズする冬場を中心にセルフビルドでコツコツと数年かけて造っている住居。「こんなに家を造らない人種は日本人くらい」と明郁さんは独学で家づくりも楽しんでいます。
若い頃から旅好きだったお二人。この地に惚れこみ2009年に名古屋から移住するまで、明郁さんは中古家具店の経営などを経て、調理を学ぶため北イタリアの料理を提供する店で働き、美保子さんは24歳の頃からヨーロッパの民芸品とアンティークを扱うお店「プチマルシェ」を経営していました。
美保子さんは学生時代から旅先で買い付けてきたものを販売しています。手仕事が感じられる民芸品や古いものたちは、プチマルシェという舞台を盛り上げる役者たち。
明郁さんは、‘旬’を感じられない都会のレストランに違和感を感じていました。「’旬’を常に味わえるお店じゃないとリアルじゃない。自分で育てたものを、その日のうちに収穫してお客さんに提供することが本質的だと思った。」とにかく自分で全部やってみようと、狩猟免許を取得。中には有害鳥獣駆除の報酬目当てで行う人もいますが、鹿などを狩猟し解体処理から調理に至るまでの全てをこなします。命あるものに対し責任を持って関わり、感謝していただく、とうことを自然体で実践されています。
理想は‘山に住めて別世界に行けるようなところ’。移住先は他県も含め検討していましたが、標高が高い長野県に絞り、休みの度に車にテントを積んで県内中をまわっていました。敷地内に川があって、人間のすべての根源だと考える‘水’がおいしいこと、町からの程よい距離感も気に入り、ピンとくるものがあったそうです。予算はオーバーしても、ここならば自分たちの景色を作れると、プチマルシェの新拠点が決まりました。夫婦で毎日スキー場のアルバイトをしながら、冬期の半年をかけてリフォームしたのち2010年の4月にレストランがオープン。今では1200坪だった土地を1500坪に増やし、野外イベントやガーデンウエディングの会場にするなど、常に発展し続けています。
大竹さん夫妻には8歳と1歳の二人の息子さんがいます。「本来気にしなくていいことを気にせずにいられる。自分の発想力で思い切り遊び、子どもが勝手に学んでくれる」このスケールの自然の中で、常に動植物と触れ合える恵まれた環境での子育て。
川ではイベントでマスのつかみ取りを行ったり、自作の池では、アイガモ農法で役目を終えたアイガモ(大きくなってしまうと雑草や虫のみならず稲も食べてしまう)を引き取り、いずれは食肉として利用します。今はやめていますが、以前ニワトリやミツバチ(養蜂)も飼っていました。ヤギの乳しぼりをすれば山羊ミルクで調理したりチーズに加工したりと、自給自足に近い暮らしがここにはあります。
あちこちにある建造物は明郁さんの作品の数々。その一角ではレストランで提供する野菜を育てています。畑の経験はなかったけれど、「どんなことでも、勉強さえすれば、あとは実践あるのみ!」そう考える明郁さんは、余分なものは使わず、ヤギの糞、コンポスト堆肥、米ぬかなど施し、農薬不使用で年間50種類ほどの野菜やハーブを栽培。また山の山菜やキノコも旬の一皿に。
コロナウイルスの感染拡大により、大打撃を受けている飲食店ですが、今後を見据えていち早く今進むべき方向性を見出し動き始めました。加工品製造の許可をとり、瓶詰めやリンゴチップスなどを製造販売。「ひょう害にあったリンゴなどを、いかにお金に代えられるか、その一言に尽きる。このままでは長野県のりんご農家はいなくなってしまう。次世代がやりたいと思えるような農業になればいい。ポップコーンみたいに、気軽に子供たちがつまめるオヤツになれば」傷ついた部分だけ除けば、充分食べられるリンゴを手際よく加工しながら、そんな思いを語ってくださいました。鹿肉を乾燥させ、ペットのオヤツも作りたいとのこと。
少し下がったところの一棟貸しの山小屋Mokki。前々から宿泊業をやりたかったお二人のもとに、空き家を活用してくれないか、と大家さんからの話があり、一冬家族三人で暮らしながら「どんな山小屋にしようか」と考えながら手を加えたこだわりの山小屋。薪割り、家庭菜園体験、ピザ窯でピザ作り、キノコ狩りや山菜採り、庭のハーブで手作りソーセージなど、静かな山にゆったり滞在しながら体験ができます。
大竹さんご夫妻の信念とアグレッシブな行動力、柔らかな頭と豊かな人脈、そしてこの素晴らしいホームグラウンド。これから先もプチマルシェはずっと進展し続け、次世代へと受け継がれていくのだと思いました。
農ある暮らし相談センターアドバイザーの山村が、県内にお住まいの皆さまのお宅に伺い、取材させていただいたものを記事にします。
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